kukkanen’s diary

障害年金で暮らす片づけられない女の日記

もうすぐ義務化される「ストレスチェック」を休職経験者が受けて思ったこと

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精神疾患が原因と考えられる航空機事故

2015年3月24日(現地時間)にフランス南東部の山岳地帯に墜落したLCCの旅客機を操縦していたパイロットについて、こんな報道がされています。

乗客乗員150人全員が犠牲となった格安航空会社ジャーマンウィングスの旅客機事故で、故意に機体を墜落させたとみられている副操縦士が、6年前に「深刻なうつ病」を患い、精神療法を受けていたと独ビルト紙が27日報じた。

独墜落機の副操縦士は故意に降下か、過去に「うつ病」の報道も - ロイターニュース - 国際:朝日新聞デジタル

大勢の命を預かるパイロットという職責上、精神面の健康状態に厳格な要求基準があることは容易に想像できますが、それ以外の事務や販売など一般的な仕事に就く人のメンタルヘルス管理の法整備も進んでいます。

ストレスチェックの義務化は、昨年6月に成立、公布された労働安全衛生法の一部改正を受けた動きだ。原則として労働者50人以上の企業が対象で、従業員に対して医師や保健師などによる心理的な負担の程度を把握する検査(ストレスチェック)を実施することが、事業者(企業)の義務となる。同50人未満の事業場は当分の間努力義務となる見込みだ。

うつ社員をあぶり出す?国の新制度への懸念 | オリジナル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

2015年12月から義務化される「ストレスチェック」とは

企業向けのリスクマネジメントを行っている筆者による記事では、ストレスチェック制度をこのように解説しています。

ストレスチェックにおいては、チェックシート形式で「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」および「心身のストレス反応」を聞くこととされており、その結果高ストレス状態であるとされた従業員は、本人が希望すれば人事に申し出ることで産業医などの医師に面談ができるとされています。

http://image.itmedia.co.jp/bizid/articles/1502/25/l_do_stress01.jpg

700万人メンタル不調時代に効く処方せん:ストレスチェック義務化の開始までに会社が準備しておくべきこと (1/2) - 誠 Biz.ID

ストレスチェック用シート

この制度で用いるチェックシートは、厚生労働省の公式サイト内に公開されています。

厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票(標準版:57項目)フィードバックプログラム」*1に基づいて、作成されたこのチェックリストは以下の内容に分類され、5分程度で回答することができます。

  • 仕事について(全17問)
  • 最近1ヶ月の状態について(全29問)
  • 周りの方について(全19問)
  • 満足度について(全2問)

▼設問例「仕事について」-「時間内に仕事が処理しきれない」

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上の図にあるような設問に4択で回答し、最後の画面で結果が表示されて、それを印刷したり、メール送信したりできます。

チェック結果は、コメント文と以下の要素別のレーダーチャートで表示されます。

  • ストレスの原因因子
  • ストレスによる心身反応
  • ストレス反応への影響因子

▼ストレスチェック結果例「あなたのストレス状況はやや高めな状態にあることが窺われます。」

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ストレスチェック結果情報の会社への開示

高ストレス状態であっても、プライバシーの観点から会社はその結果を知ることができず、面接の申し出があって初めて対応できることになるわけです。

700万人メンタル不調時代に効く処方せん:ストレスチェック義務化の開始までに会社が準備しておくべきこと (1/2) - 誠 Biz.ID

上の記事で引用したように「高ストレス」という結果が出た後の、産業医などによる面談に強制力はなく、任意とされています。

ですが、下図のフローを見る限りでは「高ストレス者」以外の労働者を含めた全従業員に事業者(会社側)への通知に同意するかどうかの確認が行われるようです。

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改正労働安全衛生法に基づく、ストレスチェック制度とは?│制度に関する制度の概要│厚生労働省

したがって、会社側への通知に同意しなかった従業員のストレス度合いを詮索されたり、身体の健康診断と同じように良い結果が出るような回答をしたりせざるを得なくなる状況が予想されます。

産業医による会社側へのアドバイス

ストレスチェックで「高ストレス」という結果が出た従業員は、産業医と面談(任意)します。面談後の企業の対応義務は以下のように解説されています。

社員の高ストレス状態が職場の問題などに起因していて、それがメンタル不調に陥るリスクがある従業員については、最終的に就業環境の調整が求められます。そのためには本人が産業医と面談することが必須となり、面談した産業医はアドバイスを会社に行います。それを基に会社は、その社員の高ストレス状態が緩和されるような措置をとる必要があります。

700万人メンタル不調時代に効く処方せん:ストレスチェック義務化の開始までに会社が準備しておくべきこと (2/2) - 誠 Biz.ID

ここで気になるのは、「ストレスが職場の問題に起因しており、就業環境の調整で解決できるものなのか?」という点です。

精神障害で労災を受けたくても、"業務に起因する疾病"であることを会社側が証明しなければ、申請すらできないという現実について先日記事にしました。

このことからわかるように、一般に「業務内容」や「職場環境」といった企業側が管理する要素を起因とする精神疾患と、個人の資質や能力による会社への適応障害は分けて考えられています。

例えば、チェックシート*2にある設問「時間内に仕事が処理しきれない」に「そうだ」と答えた人が"高ストレス者"と判定された際に、同じ業務量をこなす他の従業員の多くが「ちがう」と答えていれば、営利を追求する企業活動を行っている会社が就業環境を調整するのは難しいのではないでしょうか?

労働者に対する不利益取扱いの防止

  • 面接指導の申出を理由として労働者に不利益な取扱いを行うことは法律上禁止されます。
  • このほか、ストレスチェックを受けないこと、事業者へのストレスチェックの結果の提供に同意しないこと、 高ストレス者として面接指導が必要と評価されたにもかかわらず面接指導を申し出ないことを理由とした不利益な取扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、退職勧奨、不当な配転・職位変更等も行ってはいけないとすることが想定されています。

改正労働安全衛生法に基づく、ストレスチェック制度とは?│制度に関する制度の概要│厚生労働省

法令では、ストレスチェック実施により、労働者が不利益な扱いを受けることを禁止していますが、実際には労働者個人が不利だと感じる場面も出てくるのではないでしょうか?

産業医による復職判定

ストレスチェック導入以前の現在でも、労働者が50人以上いる事業所では産業医を選任して、健康管理を行わせなければいけないことになっています。

参考:産業医について|厚生労働省

実際に私も病気で会社を長期間休むことになった際、休職の申請は通院先の主治医が書いてくれた診断書提出により認められましたが、復職は会社が指定する産業医との面談を求められ、そのことから心がいっそう折れて辞職願を出すに至りました。

産業医を企業に斡旋する人材紹介業者のサイトでは、復職判定の具体的な内容を次のように説明しています。

主治医による「復職許可」の診断書を社員が持参してきた場合、産業医の復職判定面談では、もう1ヶ月は休職を続けて様子をみましょうなどと、主治医の判断より長めに休ませるようなことが多いと思います。

...(略)...

よく問題にあがるのは、社員が経済的な理由などから、早期復職を希望し、病気が完治していないのに、完治したと「主治医」に申告の上、復職可となる診断書を入手し、復職しますが、病気が完治していないため、結果、数日間の勤務で、再度休職し、これを繰り返すうちに、病気が治らなくなるケースです。

休職・復職判定は産業医へ|ドクタートラスト

表向きは、従業員の病気再発防止を願うトーンの文章ですが、この会社が得意とする"メンタルヘルス対策に強い産業医"を使うメリットして、以下に抜粋するようなリスクマネジメントをあげています。

心身の病気は、「企業の責任」として捉えた上で、訴訟リスクにつながる恐れもあるのだと危機意識を認識すべきです。

...(略)...

特に「うつ病等の精神疾患」は、特定の部門(システム部門や設計部門、管理部門など)で集中的かつ継続的に発病者を出すことが多く、「人事的な措置」(本人や直属上司の人事異動、配置転換、残業禁止や休職復職辞令など)を、適切なタイミングで、行っていれば、病気や自殺を防げた可能性が高いことから、人事部長や直属上司など個人に対する損害賠償請求の提訴も増えています。

労災・訴訟リスクの考え方|ドクタートラスト

『それってホントに「うつ」?─間違いだらけの企業の「職場うつ」対策』『「現代型うつ」はサボりなのか』などの著書がある、精神科産業医の吉野聡医師はこう語っています。

私は、どんなタイプのうつでも、3カ月は配慮するが4カ月目からは100%の仕事になることを復職の条件としています。

...(略)...

復職者への配慮は必要ですが、頑張らなくても勤まる職場などないわけですから、それを無限大にしてはいけません。

うつ復職者への甘やかしは不要 従来型も現代型も根にある要因は同じ 精神科産業医 吉野聡医師に聞く WEDGE Infinity(ウェッジ)

「甘えを許さない」という意見はもっともな主張ではありますが、"復職"というチャンスを簡単に与えないこのような運用から、休職期間の満了をもって退職せざるを得なくなった人が大勢いるのではないでしょうか。

ですが、産業医の勧告をもとにした"適切なタイミングでの人事措置"が、企業が怖れる訴訟などのリスク回避や不良債権化した人的コストの削減に役立っているのはいうまでもありません。

産業医と主治医の違い

同じ患者と接する医師でありながら、主治医と産業医で職場復帰に関する見解が分かれる理由は次のように解説されています。

主治医であれば、患者さんにとって最良の方向を見出すことを第一に考えます。例えば診断書にも、出来る限り患者さんがうつ病を再発させないように、職場でのストレスを減らすこと、現在の職場は不適であり異動を勧める、などと書くことがあります。患者さんにとってベストな方法を探るから職場での配慮を求めます。

これに対し産業医の立場では、会社で働く全社員の健康を第一に考えなくてはなりません。主治医の求める異動が可能であればよいのですが、うつ状態であることを理由に異動に応じられることは少ない。うつを理由にした異動は、職場全体のバランスを考えながら慎重に行う必要があります。つまり、産業医と主治医は、診ている対象が違うということです。

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これは、その患者の診断(判定)を依頼しているのは誰なのか?という視点で見れば、答えは明白です。

企業が顧問料や訪問料といった報酬を支払っている産業医が、会社側の立場に立った判定を行うのは当然のことでしょう。

参考:産業医の紹介なら株式会社ドクタートラスト|料金・契約プラン一覧

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メンタルヘルス周辺産業の盛り上がりと、労働者の認知度

新しい法律ができると、必ずその制度の恩恵を受けて、潤う業界があります。

「労働安全衛生法の一部を改正する法案(通称:ストレスチェック義務化法案)」が2014年6月19日に国会で可決されたことを受けて、メンタルヘルス業界では絶好の商機とばかりに様々なソリューションがリリースされています。

お店や職場に有線放送を提供していることでよく知られている株式会社USENでは、《こころの保健室》というメンタルヘルス対策ASP*3を立ち上げて、話題となっています。

メンタルヘルス関連産業の盛り上がりとは裏腹に、その対象となる労働者への周知は遅れているようです。

マクロミルが20歳~59歳までの働く男女1,000名を対象に実施した「ストレス実態調査」によると、94%の人が「ストレスチェック義務化法案」の2015年施行を“知らない”と答えています。

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~ストレスチェック義務化法案にともなう~働く男女1,000人ストレス実態調査ストレスを感じている会社員84%、原因は「仕事内容、職場の人間関係」がトップ。ストレスを感じる頻度は「ほぼ毎日」|マクロミル

なお、ストレスチェックの対象者は手厚い休職制度がある正社員に限定されず、労働時間など一定の基準を満たすアルバイトやパートの非正規雇用の従業員にも適用され、これが契約更新時の雇い止めなどに利用される懸念もあります。

*1:参考:職業性ストレス簡易調査票|東京医科大学|公衆衛生学分野

*2:5分でできる職場のストレスチェック|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(自殺対策を含む)

*3:Application Service Providerの略語でWeb上で提供される業務系などのサービス。パソコンのブラウザやスマホなどを通して、サービスを利用するので、企業が自社サービスを自前で構築するより、管理コストの面でメリットがあるとされています。:アプリケーションサービスプロバイダ - Wikipedia