kukkanen’s diary

障害年金で暮らす片づけられない女の日記

リスパダールが適応申請した易刺激性って何?

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リスパダールが自閉症の子供への適応申請

統合失調症などに適応があるリスパダールが、日本で子供の自閉症にも処方できるよう申請されたニュースをフォローしている児童精神科のお医者さんの"はてブ"で知りました。

抗精神病剤「リスパダール®」小児期の自閉性障害に伴う易刺激性の適応追加申請のお知らせ | ヤンセンファーマ株式会社

ようやく来た。これでやっと正々堂々と使えるな。

2015/04/25 07:54


ようやく来た。これでやっと正々堂々と使えるな。 - AFCP のコメント / はてなブックマーク

リスパダール服用を決断したお母さんの声

アスペルガー症候群と診断されたお嬢さんに、リスパダールを飲ませることになった親御さんの苦悩が、ブログにつづられています。

本人が苦しいから薬で楽にしてちょうだいって言ってるわけじゃない

親の勝手な判断でもしかして危ないかもしれない薬を飲ませる。(危ないというのは語弊があるかもしれませんが・・)

それも薬を飲むことで親が子供を扱いやすくなったりするわけで自分のエゴで子供の体や心を痛めつけてるのではないかって罪悪感にかられるわけです。

ADHDの投薬に関して現在の考え - うちの子流~発達障害と生きる

同じ発達障害でも、成人後に診断された人と小児のそれでは、大雑把にまとめると以下の違いがあるように思います。

診断時期困っている人受診のきっかけ
小児 養育者 しつけではカバーできない問題行動に「育てづらさ」を感じる
成人後 本人 抑うつなどの二次障害で「生きづらさ」に気づく

広告「親子の絆はつなぎ止められるかもしれない。お医者さんの手で」

以下の記事でも取り上げましたが、イーライリリー社のバナー広告に使われているキャッチフレーズは衝撃的でした。

もし、お子さんがADHDなら、親子の絆はつなぎ止められるかもしれない。お医者さんの手で。

www.kukkanen.tokyo

男の子を叱りつけているお母さん

どこ吹く風といった様子の男の子をお母さんが叱っているイラストです。

2人を結ぶ赤い線は今にも断線しそうです。

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「どうしたらいいの?」親と子のためのADHD(注意欠如・多動性)情報サイト)|日本イーライリリー株式会社

親子の絆をつなぎとめるお医者さん

ADHDと診断されて医療につながれば、つまり、イーライリリー社が販売しているストラテラを飲めば解決できることを示唆しています。

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「どんな解決方法が?」親と子のためのADHD(注意欠如・多動性)情報サイト|日本イーライリリー株式会社

養育の難しさからくる親から子への虐待、または当事者である子供が家庭内暴力に及ぶなど、ADHDに限らず発達障害に起因する親子問題が取沙汰されることも増えました。

易刺激性とは?

そこで改めて、リスパダールが薬効として掲げている易刺激性に関する説明を読んでみました。

自閉性障害は、中核症状とされる①対人相互反応における質的な障害②コミュニケーションの質的な障害③行動、興味および活動の限定された反復的で常同的な様式を基準に診断されます。

自閉性障害には中核症状以外にも易刺激性などの周辺症状があり、易刺激性の具体的な症状として自傷行為や攻撃性などが挙げられます。

抗精神病剤「リスパダール®」小児期の自閉性障害に伴う易刺激性の適応追加申請のお知らせ | ヤンセンファーマ株式会社

自閉症の診断基準である3つの症状(青字)はよく目にしますが、周辺症状として挙げられている易刺激性という言葉を初めて知りました。

リストカットや他者への好戦的な態度は、自閉症スペクトラム以外の患者でもしばしば見受けられ、そういった疾患に対症療法的に処方されるのがリスパダールなのかなという印象です。

DSM-5での易刺激性の扱い

英語では「易刺激性」を"Irritability"と称するそうで、DSM-5などでどう扱われているのか、軽くググッてみました。

易刺激性は平たく言うと「イライラしたり、すぐにカッとなって怒ったりする性質」であり、ならばADHDや双極性障害の特性とかぶるのでは?という疑問を持ち、それらしきキーワードでヒットしたのがブラジルの論文です。

ABSTRACT

Irritability is defined as a low threshold to experience anger in response to frustration.

It is one of the most common symptoms in youth and is part of the clinical presentation of several disorders.

...(略)...

In the present article, we address two main components of the debate regarding irritability in youth: the misdiagnosis of chronic irritability as pediatric bipolar disorder, and the proposal of a new diagnosis in the DSM-5, disruptive mood dysregulation disorder, whose defining symptoms are chronic irritability and temper outbursts.

Revista Brasileira de Psiquiatria - Irritability in children and adolescents(小児及び青年における易刺激性): past concepts, current debates, and future opportunities - Scientific Electronic Library Online

論文要旨(ABSTRACT)で述べられている内容を簡単に意訳します。

※ 土台となる基本的な知識がないので、誤読していた場合はコメント欄などでご指摘ください。

  • Irritability(易刺激性)は、欲求不満に対する怒りの体感のしきい値が低い状態
  • 易刺激性は若年者によくある症状で、その他の精神疾患の臨床所見でも認める
  • 小児期の双極性障害(pediatric bipolar disorder)が慢性的な易刺激性(chronic irritability)に誤診されてしまう問題
  • DSM-5で、かんしゃく発作(temper outbursts)や慢性的な易刺激性が定義されているのが重篤気分調節症(disruptive mood dysregulation disorder: DMDDと略す)

ちなみに、日本語版のDMS-5では以下のように和訳されています。

DSM-5原文和訳
Depressive Disorders 抑うつ障害群
- disruptive mood dysregulation disorder(DMDD) - 重篤気分調節症
-- temper outbursts -- かんしゃく発作

出典: DSM‒5病名・用語翻訳ガイドライン(初版)PDF | 日本精神神経学会

Severe Mood Dysregulation (SMD)という概念

DMS-5に掲載されたDMDD以前にSMDという概念があったようです。

病名エピソード気分の高揚継続期間特徴
双極性障害1型 7日以上  
双極性障害2型 軽躁 4日以上  
SMD 易刺激性 主症状ではない   慢性、深刻な易刺激性

出典: Leibenluft E, Charney DS, Towbin KE, Bhangoo RK, Pine DS. Defining clinical phenotypes of juvenile mania. Am J Psychiatry. 2003;160:430-7Revista Brasileira de Psiquiatria - Irritability in children and adolescents(小児及び青年における易刺激性): past concepts, current debates, and future opportunities - Scientific Electronic Library Online

少し古い記事ですが、臨床心理士さんがDMDD、SMD、双極性障害の関係性について解説しています。

(5)重度(破壊的)気分調整不全障害(Disruptive Mood Dysregulation Disorder)

6歳から17歳までのうつ病状態

1年以上続く子供の苛々や癇癪(週に3回以上の癇癪)。

周期的な癇癪は双極性障害と考えられてきたが,多く診断されすぎる

→重症気分障害(SMD)の概念が出現

SMDから双極性障害の部分を抜いた(抑うつ)がDMDD

まとめ:双極性障害の過剰診断を防ぐ目的に

sukimapsy.hatenablog.com

双極性障害とDMDDの切り分け

なお、小児及び青年における易刺激性の評価は以下のフローが示されています。

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出典: Figure 1 Assessment of irritability in children and adolescents Revista Brasileira de Psiquiatria - Irritability in children and adolescents(小児及び青年における易刺激性): past concepts, current debates, and future opportunities - Scientific Electronic Library Online

ADHDと易刺激性

ADHDの診断基準に易刺激性は無いものの、かんしゃく発作や情動制御欠如(慢性的な易刺激性)といったエピソードの発現は双極性障害(BD)との区別に有用だとされています。

The episodicity of the presentation was useful to differentiate BD and ADHD, because while irritability is not a diagnostic criterion for ADHD, temper outbursts and deficits in emotional regulation (chronic irritability) are often seen in this entity.

Revista Brasileira de Psiquiatria - Irritability in children and adolescents(小児及び青年における易刺激性): past concepts, current debates, and future opportunities - Scientific Electronic Library Online

ADHDとDMDDの関係

なお、インテークアセスメントによると下図のようにADHD当事者の大部分がその他の障害の基準を満たしていることがわかります。

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"Distinction From Oppositional Defiant Disorderand Conduct Disorder"(反抗挑戦性障害・素行障害との区別) -Examining the Proposed Disruptive Mood Dysregulation Disorder Diagnosis in Children in the Longitudinal Assessment of Manic Symptoms Study

上図にあるODDとCDは、「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」というなんだか恐ろしい疾患名にカテゴライズされており、参考までに和訳の一覧を表にまとめました。

DSM-5原文和訳
Disruptive, Impulse-Control, and Conduct Disorders 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
- Oppositional Defiant Disorder(略称: ODD) - 反抗挑発症/反抗挑戦性障害
- Intermittent Explosive Disorder - 間欠爆発症/間欠性爆発性障害
- Conduct Disorder(略称: CD) - 素行症/素行障害
- Pyromania - 放火症
- Kleptomania - 窃盗症

出典: DSM‒5病名・用語翻訳ガイドライン(初版)PDF | 日本精神神経学会

自閉症スペクトラムとADHDの併症が公式に認められると?

ADHDに関するDSM-5の変更点について、id:AFCP先生は以下のように解説しています。

DSM-IV-TRではADHDは、反抗挑戦性障害や行為障害とともに Disruptive Behavior Disorder (破壊的行動障害)という、なかなかなネーミングのカテゴリーに入っていました

これが DSM-5 では、自閉症スペクトラム障害などと同じ Neurodevelopmental Disorder (神経発達障害)というカテゴリーに入ることになり、日本の臨床家にとっては馴染みやすいところに落ち着いたと言えるでしょう。

...(略)...

自閉症スペクトラム障害との並存が公式に認められたことで、日本でも 医師による診断のばらつきが若干減ってくることになるのではないかと思いますが、それ以外には大きな影響はなさそうに思います。

DSM-5 での注意欠如多動性障害(ADHD)の取り扱い - A Fickle Child Psychiatrist

ということは、今までADHDと診断されてストラテラやコンサータを服用している人にも、今後リスパダールが処方されることが多くなるのかなあ、ぼんやりと考えてみました。

それでは、復習を兼ねて発達障害に関連する処方薬をメーカーごとに整理します。

製薬会社ADHD治療薬抗精神病薬SNRI
イーライリリー ストラテラ ジプレキサ サインバルタ
ヤンセンファーマ コンサータ リスパダール トレドミン

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